八王子古本まつり

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第16回八王子古本まつり 特集「百薬」第16回八王子古本まつり 特集「百薬」

第16回 八王子古本まつり
特集「百薬」

2017.5.3-5.7 10:00-19:00(荒天中止)期間終了

第16回 八王子古本まつり SPECIAL LECTURE
森で出会う百薬たちの世界

ひにち:
2017.5.4 14:00-17:00
ところ:
となりわ / 八王子市横山町9-10
参加費:
1,500円 + 1 order (満員御礼)

第16回 関連ニュース・トピックス

公式レポート(第二回)SPECIAL LECTURE「森で出会う百薬たちの世界」

会場に用意されたマイクを使わず、よく通る地声で話し始めた小川康さん。
「これで自己紹介したいと思います」と言って取り出した何かに、息をふきかけて膨らませはじめました。
どうやら紙風船のようです。

薬といえば紙風船、紙風船といえば……?

小川

小川

これで「小川さん、何県だ」ってわかる方いますか? わかりますよね? わかります? ……いや、僕ね、今の様子を富山県知事に動画で見せたいです。出身、富山県なんです。「薬といえば紙風船、紙風船といえば富山」という時代が、西暦1700年頃から300年ずっと続いて、今、途絶えようとしているということが、すごく実感できました。(会場笑)

1700年頃、薬草で町おこしに成功したのが富山なんです。ただね、皆さん誤解しないでください。「富山県には薬草が多い」と、富山の人も思い込んでる。実は、富山県にはありません。ないからこそ価値に気づいて商品化しようとしたんです。シンガポール的戦略です。

今、北陸新幹線が通って、富山では「さあ薬膳だ」「さあ薬草だ」って盛り上がっていますが、飛騨高山に講演に行くと、飛騨高山の人から言われるんです。「富山県の人たちは、我々の薬草で勝手に盛り上がっている」と(会場笑)

タバコもコーラも、体に良い時代があった

小川

小川

私は富山県の田園地帯で生まれ育ちました。子供の頃、塾とかないところだったんで、とにかく遊んでました。何もない中で遊ぶって、毎日がアドリブですよね。今はイベントやツアー、講演なんかで、皆さんの前でお話をしますが、いつも完全にアドリブです。こう、立ってから「何を話そうかな」って考えます。

先日、栃木県の小学校に行って薬草の授業をやってきました。でっかい講堂に小学6年生が66人、保護者の方も同じくらいいて。でも、子供たち、なんだかダルそうにしてたんですよ。そこでちょっと遊びたくなるっていうか、ふっと浮かんできて言ったのが「タバコってさ、結構体に良いんだよ」(会場笑)

「今はこんな風に悪者にされてるけど、ちょっとタバコの言い分聞いとくれ。だって18~19世紀『タバコを吸うと頭が良くなる』って言われていたんだよ。カントとかヘーゲルとか、偉大な哲学者たちはタバコを吸いながら色んな思索にふけったんだよ」って。

坂田

坂田

そうです。私も吸ってます(笑)(会場笑)

小川

小川

タバコの権利を主張するわけじゃないんです。薬とか薬草って、人間の文化とか主観によって、評価がコロコロ変わるっていうことなんです。

それで子供たちが喜ぶもんだから、次のネタは大体想像つきますよね? 「コーラも体に結構良いんだよ」(会場笑)「コカ・コーラって、アメリカのジョン・ペンバートンっていう薬剤師が、アメリカの人たちの健康を考えて、ナツメグ、バニラ、クローブ……いろいろ入れて作った薬草健康飲料だったんだよ。何がいけないって、そこに砂糖をたっぷり入れちゃった。だから、本来コカ・コーラが悪いわけじゃないんだよ」

だんだん調子に乗ってきて、「コーヒーの話をしようか。みんな中学生か高校生になったら……」って言ったところで「飲んでるよ、もう」って言われて(会場笑)
最近は受験勉強するの早いんですね。夜、勉強に備えて飲んでるそうです。

コーヒーといえば、僕よく誤解されるんですけど、どこかに招かれると「小川さん、薬草とかハーブティーお好きなんですよね」って、ドクダミ茶出されるんです。あの、美味しい紅茶かコーヒーをください(会場笑)

ここで「カフェインってちょっと嫌だな」って思う方もいらっしゃると思うんですけど、私たち人間は、大昔からカフェインが入っている植物を見つけて、水に溶かして飲んでいるんですよ。

現実的で疑い深いチベット人

小川

小川

チベット人は、薬や薬草に関しては、日本人より良い意味で現実的で疑い深いです。
有名なお釈迦様の一節があります(チベット語で披露)
「良いか、賢者どもよ。金の真偽のほどは、挽いて、焼いて、擦って、その中身をしっかり調べなさい。先生が『正しい』と言ったからと言って、決して鵜呑みにしてはいけない。自分で考えなさい」
これはダライ・ラマ法王が何度もおっしゃる言葉です。「まず教えを疑いなさい」と。

チベット社会で10年生きて、その言葉が自分の無意識に染み込んだようです。日本に帰ってきても、無意識にいろんなことを疑ってみようとします。
今日は、みなさんが当たり前だと思っていることに疑問を投げかけていきますが、腹が立ってもブログとかに悪口書かないでください(会場笑)

ここでひとつ。そもそも、僕たちが当たり前だと思っている「効く」とか「効かない」とか、誰が決めたんだろう?

長く評価が変わらない、数少ない薬草たち

小川

小川

長い歴史を見たときに、評価が変わらない数少ない薬草もあります。

まずはヒポクラテスよりその昔からのロングラン商品。インドの山奥に行っても日本と同じ使われ方をしている薬草。それは「ヤナギ」です。成分はアセチルサリチル酸、アスピリン。アスピリンは、バファリンをはじめとする、いろんな薬の原料になっています。富山の薬の発祥にもなった「ケロリン」にも配合されています。

ヨーロッパでは昔から、ヤナギには痛みをとる作用があるということが知られていました。でも、それを飲むと強い胃腸障害が起きるんですよ。1897年、ドイツのホフマンという人が、ヤナギから抽出した成分に、お酢 ━本当はアセチル基といいますが、ここでは分かりやすくお酢と言います━ を加えて、胃腸障害の少ないアスピリンを誕生させました。
その後、アスピリンは石炭や石油から大量合成されるようになって、今これだけ世界に普及しました。

ケミカルの原点には「人の役に立つために、より良いものを」という想いがあります。自然から取り出したものを、より副作用を少なくしよう、より長続きさせよう、とやってきたのがケミカルなんです。

他に大昔から評価が変わらない数少ない薬草のひとつは「ケシ」、モルヒネです。鎮痛作用があります。

それから「キハダ」。現在では、ドラッグストアにおいてある、ありとあらゆる商品に入っています。目薬、歯磨き粉、湿布薬、整腸剤……。キハダという名前ではなく、成分名のベルベリンで書いてあります。

坂田さんはキハダを見たら分かりますか?

坂田

坂田

大体わかります。高尾山だと、裏高尾の中腹くらいにありますね。

小川

小川

キハダの木を見つけるのは難しいですよね。

坂田

坂田

難しいです。

小川

小川

まず群生しないんです。鳥がキハダの実を食べて、消化して、糞と一緒にポトンと落ちたところから芽が出て育ちます。見た目は山椒の木を大きくした感じです。遠くから見つけるのは、かなり難しいです。

坂田

坂田

遠目だと分からないよね。

小川

小川

でも、なんか「顔」が違うよね。

坂田

坂田

顔……、立ち居振る舞いが他の木と違う。

小川

小川

そうそう、語りかけてくる感じ(会場笑)まずはインターネットで「キハダ」を画像検索して、その後できれば坂田さんの高尾山ツアーに参加して探してみてほしい。

僕は「もしも遭難したら、どんな薬を作れるかなあ」と考えながら生きてるんです。もしも今ここで何かが起こったら、たぶんキハダの木が一番役に立ちます。私たち日本人には特に。縄文時代から現代までずっと、日本人はキハダから薬を作り続けているんですよ。

大昔から評価が変わらない、意外なロングセラー商品

小川

小川

もうすぐ1時間経っちゃうのに、百薬のうちの五薬か六薬くらいしかまだ話してない気がする(会場笑)できれば百薬いきたいんだけど(笑)(会場笑)
あと大昔から評価が変わらない、意外なロングセラー商品は「トリカブト」です(会場驚)

坂田さん、トリカブトは高尾山にもありますか?

坂田

坂田

たくさんありますよ。結構そこら中に。

小川

小川

気温が低いんですね。

坂田

坂田

そうですね。高尾山は結構寒いです。

小川

小川

トリカブトは蒸してアコニチンっていう猛毒成分を無毒化すると、強心作用と沈静作用のある成分が残るんです。日本以外にも、チベットや漢方でもトリカブトは薬として使われています。「毒を制する毒」といったところでしょうか。

食べて死にそうになった薬草

小川

小川

僕、トリカブトを食べて死にそうになったことがあるんです(会場驚)葉っぱをちょっとだけ、本当にちょっとだけ食べたら、本当に死にそうになりました。神様に祈りましたね。「もう二度とこんなことはしません」って(会場笑)「がんばれ肝臓、解毒だ解毒だ」って言い聞かせて(会場笑)

長野県に牧先生という有名な生き字引きのような方がいらして、その先生に「トリカブトは毒じゃない。食べてみなよ」って言われて食べた時は、本当になんともなかったんです(会場驚)そういう経験があったから、食べたんだけど……。皆さん、気をつけましょう。

坂田

坂田

高尾の地元の人は「高尾のトリカブトは他のところより毒が薄い」って言うんだけど、確かめたことはない(笑)

小川

小川

その他に僕が食べて死にそうになった薬草は「クララ」です。かわいい名前でしょ? 漢方名は「苦参(くじん)」。和名の由来を見ると「クラクラするほど苦いから」って書いてあるんです。だんだん食べたくなってきたでしょ?(会場笑)若かりし頃、根っこ掘って食べたんですけど、クラクラどころじゃなかったです。

あと私が死にそうになった薬草は「マムシグサ」。

坂田

坂田

マムシグサ~!(笑)蛇が鎌首をあげてるような形の植物ですよね。

小川

小川

里芋の仲間なんですよね。

富山県の親子イベントで掘って「ほら、これ毒草だよ」って言った瞬間に、本で見ただけで偉そうに言ってる自分に腹が立ってきたんです。誰かが頑張って見つけた知識を、僕はただ覚えただけじゃないか、と。地に足が着いていない知識、身体化されていない知識に、自分がバランスを欠いてしまったんです。それで「ちょっと食べてみよっか」って。正直に言うと、それほど大したことないと思ってたんです。

坂田さん、食べたことありますか?

坂田

坂田

ないですよ~! 怖くて!

小川

小川

「うわあ~」くらいで終わるかと思ったんですけど、食べた瞬間死ぬかと思った。「ぬぅぅぅうおおおおわああああぁ!!!!! み、み、み……、み、み、み、水っ……!!!」って感じ。僕のリアクションが本物だということに子供たちも気づいて、慌てて水を持ってきてくれて。あの時にいた子供たちには最高の教育になったかな、と。「マムシグサ、これは毒だよ」と後世まで語り継がれると思うんです(会場笑)

実はその時、富山新聞が取材に来ていていまして(会場笑)本気で人生が終わると思って、苦しんでいる間ずっと頭に浮かんでいたのが「薬草指導員 薬草で死ぬ」って見出しが載っている翌日の新聞でした(会場笑)

薬草にあれこれ求めないのが一番

会場

会場

毒草を食べた後、解毒作用のある薬草を口に入れなかったんですか?

小川

小川

正直に言うと、僕は薬草にあれこれ求めないのが一番だと思ってるんです。色んな村々に行って、地元の方々にインタビューするんですけど、答えが千差万別なんです。そこに生えているものも、そこで信じられている効果も、全然違うんです。

そこでまたこの疑問が出てくるんです。僕たちが信じている「効く」とか「効かない」ってなんだろう?

大自然の中に一からつくった「森のくすり塾」

小川

小川

百薬のうちの十薬くらいしか話せてないですが、休憩を取る前に一番話したいことを少し話させてください。

長野県上田市の別所温泉から車で5分の距離にある、野倉(のぐら)という小さな集落で暮らしています。

我ながらいまだに信じられないんですが、森をいただいたんですよ。そこにお薬屋さんを建てようと思ったら、仲のいい大工さんが「せっかくだから最初っからやろうよ。木を切るところからやろうよ」と言ってくれて。大工仕事初心者だった僕は「やろう! やろう!」って答えてしまったんですけど。
やってみて初めて分かったんですが、木って切ったあと運ぶのが大変なんです。切った木をトラックに積んで製材所に運ぶのが、とにかく大変でした。「木ってこんなに重いんだ」って。

「森のくすり塾」、大自然の中に自分たちで一から作りました。皆さん、ぜひ来てください。

2016年8月1日にオープンして以来、訪れてくれる人がだんだん多様化してきていて。ついこの間は、「うどんアーティスト」が来てくれました。ロックに合わせてうどんを打つ、っていう(会場笑)「小野うどん、ロック」で検索してみてください。彼、僕の一押しなんです。もともと讃岐うどんの修行をした人なので、うどんがちゃんと美味しいです。そんな彼が「森の中でうどんを打ちたい」と言うので、「いいよ」って言って。森の中で彼がパーン! パーン! と、うどんを打つ様子を、僕が撮影して(会場笑)
今は高校を辞めた子が、ちゃんと親御さんの了解も得て、薪を割りに来ています。

営みのうえにある、なんとなくの医学

小川

小川

正直に言うと、お薬の売り上げはたいしたことないです。でも、お薬ってそれで良いんじゃないかなって思うんです。そんな薬屋さんも、あっていいのではないでしょうか。
僕が一番やりたいことは、「営みのうえにある、なんとなくの医学」なんです。そういうものをやりたいんです。

大自然の中で一緒に薪を割ったり、小枝を拾ったり。そういう営みをやりたい人、大歓迎です。去年はほとんどの薪を学生たちが割ってくれました。今年もどうもそんな感じ。薪を割るまでの準備が大変なんだけどね(笑)

「森のくすり塾」、わかりにくい場所にありますので、頑張っていらしてください。

坂田

坂田

行くまで不安になってくるんですよね(笑)この道で合ってるのかなあ……? って(笑)

小川

小川

看板もないしですしね。
「森のくすり塾」は、一応ドラッグストアって位置づけなんですけど、皆さんのドラッグストアの概念を覆すと思います(笑)

次の夢は古本屋を建てること。今住んでいるところには「古本」っていうカルチャーがないので持ち込めたら、と。

坂田さん、野倉に分館建てませんか?